©COPYRIGHT 2006 cinema11undici-Rai Cinema
イタリア映画の名匠エルマンノ・オルミ監督の、自らが映画人生最後の長編映画と称して作り上げた作品。代表作『木靴の樹』にも見られた、北イタリアの自然の詩的な描写と、厳しくもたくましい貧農民の暮らしを静かに見守る慈しみ深い眼差しが、30年の時を経た今作でより包容力を増して注がれている。
ボローニャ大学といえば、イタリアの高等教育機関の最高峰であるが、その大学図書館で大量の古文書が太い釘で床に釘付けされるという衝撃的な事件が起きる。本という知識の象徴の磔刑ともとれる過激な行為、警察の捜査は直後に消えた若く優秀な哲学教授を追って進む。何故彼がこんな過激な行動に出たのか、全てを捨てドロップ・アウトした理由は?
放浪の末に辿り着いたポー川のほとり、田舎の村。そこで出あった無垢な人々は、教授をキリストさんの再来と見なして甲斐甲斐しく世話を始める。教授と村民の関わり合いは、次第にキリストと使徒の聖書のエピソードと同化していく……。
バチカンと共にある確固としたカトリックの国・イタリアで、キリスト教信仰に一石を投じる過激さを伴う意欲作を、最晩年に発表する心意気。数々のドキュメンタリー作品で培われたであろう問題提起と反骨が、拍子抜けするほどにゆったりと牧歌的なトーンの中に取り込まれていて、絵画のように美しい。人間のすぐそこにある自然の風景をファンタジックに切り取った、実の息子によるカメラにもオルミ監督の血が通っている。寓話絵本のようなとっつきやすさがありながら、根源的なテーマに深淵を覗きこんだ手応えが残る。
黒澤、今村、オリベイラ……ヴェテラン監督の晩年には、到達した者のみが持つ羨ましいような自由さがあると思う。のびのびおおらかで、ひょうひょうとし、とぼけて屈託なく、それでいて鋭い。子供がえりのように純化されていく様を、オルミ監督にはもっと見せて欲しかったとも思う。
監督は、とても満ち足りてこの最後の長編を撮り終えたという。見事ではないか。(増井志乃)
2009.7.13.update

