©2010, Angelus Silesius, TVP S.A
子供の頃、メトロポリタン美術館で絵画を眺めながら、ふと登場人物たちが動き出し、そこに吸い込まれる感覚を憶えた。大人になるに連れ、観賞は“入る” よりも、自分の感情との共感へと移っていった。だが映画『バスキア』も監督した美術作家レフ・マイェフスキの新作は、観る者を、ブリューゲルの《十字架を 担うキリスト》という一枚の絵の中へ引き込む。オランダの風俗に象徴的な意味を込めた絵画世界をただ観賞するより、屈託のない子供の笑いや母乳をあげる母 親の肌の感触、衣装の衣擦れや赤い色彩の質感の確かな現実感と、絵画の人物たちが話し、生活する場に自分がいるという奇妙な疑似体験となる。「ブリューゲ ル的な作家」と彼を称した一人の美術評論家の考察から始まった異色作は、観るほどに味わい深く、知的な探求となるに違いない。(江口研一)
2011.12.22.update

